ニホンミツバチの蜂蜜。

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ニホンミツバチの蜂蜜。


ニホンミツバチは野性種で、主に山野に生える巨木の樹洞や岩穴に巣をつくって暮らしています。営巣場所の特徴を挙げると、外敵(ツキノワグマ、オオスズメバチ等)の侵入を防ぐことが可能な小さい巣穴、穴の奥には巣を作るのに適した広い空間、雨水の浸入を抑えることが可能、といった条件を備えているように思います。しかし現代ではそんな良い場所(巨木)はなかなか自然界にないため、電柱の中に営巣したり、お墓の納骨堂の中へ営巣したり、人の暮らしも利用しながら生活しています。

 

ハチたちの生活に適した営巣場所はそう多くないことから、山野にハチが好みそうな木箱を置いておくと、ニホンミツバチの群れが入居してくれることがあるわけです。それを狙って杉の板で箱を作り、台座をコンパネで仕上げ、箱を担いで山へ登って仕掛けたのが岡山暮らし二年目、今年の3月でした。どんな場所を好むのか、どんな素材の樹を好むのか、どんな匂いを好むのか。通訳のいない世界なので、どれだけミツバチの気持ちを汲むことができるかが成果となって現れます。4月末に五つの群れが入居してくれていることを確認したときの気持ちは格別でした。しかし、入居までは良かったもののこの夏の高温で巣が落下し、二つの群れが巣箱を離れて引っ越していきました。そのため、我が家のミツバチは三つになっていたのでした。

 

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そしてきょう、仕事が落ち着いたので昼過ぎから一つの巣の蜂蜜を絞ることに。自作の切り出し刃物を使って、9枚の巣盤のうち3枚を残して巣箱から切り取ってはタライに乗せていきました。こうしておくと、また再生して冬越しをすることができると教えてくれたのは宮崎の師匠でした。
ひとつずつ切り取っていくと、巣の上部に蜂蜜が溜まっているのが見え、下部には幼虫が大きくなる育房が見えました。引き出すにつれて見えてきた金色に輝く巣と、辺りに漂う芳香。息をのむ美しさでした。

 

この時期のニホンミツバチの巣はとてもやわらかいので、切り取ると同時に形が崩れてきます。そのため、全ての巣をきれいに切り取ることはなかなかできません。その結果、巣箱の端にはいくつかの破片が残ってしまいます。それを削り取り、そのまま口に放り込む。噛むたびに巣から溢れ出す濃厚な甘さと香りが、汗だくの身体を突き抜けていきました。あの食感と味は巣を獲る際にだけ味わえるもので、とびっきりのご馳走です。やっぱり私は、野山のご馳走を分けてもらう際には、細かいことを気にせずに大胆に頬張るほうが好きです。
切り出した巣はザルのうえに置いて、それを大きなバケツのうえに載せます。そしてタライごと漬け物用の二斗袋をかぶせ、陽当たりの良い場所に置きます。しばらくすると太陽の熱で袋のなかの温度が上がり、巣をつくっている蜜ろうが溶けることで蜂蜜が垂れてきます。これを、垂れ蜜といいます。

 

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機械や人間の力で巣ごと圧力をかけて絞ると、ほとんど蜂蜜を残すことなく絞り切ることができる一方で、花粉や幼虫が潰れた汁が蜂蜜に混入してしまいます。花粉や幼虫の成分が混ざることで栄養が豊富になり収量も増えるという意見もありますが、雑味も出てしまう可能性があります。そのため、力を掛けずに自然と垂れ落ちるこの蜂蜜が、もっとも上品であると師匠に習い、実際に私もこの味がいちばんすきです。量はとれずとも、自然と流れ出した蜂蜜。その上品さととびっきりの甘さは、野性の甘味のなかでも群を抜いていると私は思います。ただし、他にももっと適したやり方があるようなので目下勉強中です。

 

ニホンミツバチの蜂蜜は、まずは自家用で考えています。それは、いつだったか妻が、(うちで使う糖分を、お砂糖から蜂蜜に変更できたらいいなぁ。)と言っていたからです。でも、うちで使う以上にたくさんミツバチが入居してくれるようになったら、つまりそれだけミツバチの気持ちを汲んで腕をあげることができたなら。世に必要として下さる方のもとへと少しずつ、少しずつご提供できたらと考えています。どうか気長にお待ちください。